傘のオーダーなど気持ちを込めた傘づくりを始めた店を出してから、傘を大事に使われる方がとても多い事に気づかされています。
今回も旦那様が大事に使っていた傘を誤って生地に穴を空けた奥様から、張り替えの依頼が来たのですが、、、、、、
話を聞いて傘を見させていただいて、結構緊張してしまいました。
この傘は雨の日に傘に当たる雨音がとても綺麗に聞こえる傘だったそうです。
それで何十年も大事に使われていたということでした。
この傘のネームに傘メーカーの織りネームが付いていて、それがあの皇室御用達で有名な前原光栄商店の作品で、おまけに先代の作られた商品のようです。
すぐに前原さんのところに傘を持って色々お伺いして来たのですが、生地はだいたい同じものがあるのでそれを分けてもらい、なおかつ自分が張替えさせてもらう事で承認され、自分が作ることとなりました。
傘は今の様な張り方ではなく、綺麗に強く張ってある昔ながらのこうもり傘の形状でいい形の傘です。
穴を開けてしまった一駒以外はまだ綺麗に張られていて叩くと太鼓のようにいい音が出ています。
自分が作って同じ音色の傘を作ることは絶対無理であるということをお客様には話しましたが、それでも構わないからなんとか張り替えて欲しいと言われて、挑戦する事になりました。
幸いとても大事に使われていたので傘を解いてバラして型を取ることができた事が最後には良い結果になったのですが、3回作り直しても同じ形に張れずに、いっときはもう駄目かと匙を投げたい日々が少し続いていたようです。
今までうちの師匠と傘の作り方の話や他の職人さん達との傘づくりの話などを思い出して、東京洋傘のコウモリ傘の作り方を何度も頭でシュミレーションして、解いた傘の駒を見て伝説の職人さんの作り方はどのようにしていたのだろうとじっと見入っていた時に、その駒にヒントがありました。
再度型を合わせて、最後の残りの生地を裁断して、多分このようにして作ったのだろうと試してみたら、同じような形で張り方も綺麗に強く張れて、最も難関だった天のぶくりもなく(この部分は専門的な表現ですみません、説明がちょっと難しいです)、なぜこの生地でないと綺麗に張れないかも少しわかった気がします。
最初と同じ音が出せるかというと、そこに関してはまったく自信はありません。
でも傘の形は少しでも前職人さんの作った形に近づけたことだけは、作る決意をして出来上がった商品を見て、ちょっとだけ満足しています。
この傘に使われている骨はもう30年以上は前のものだと思いますが、露崎がギボシの一体型で真鍮骨を使っていました。
中棒は一本木棒で線ハジキの日本製の、今ではどこを探してもない骨でした。
この骨がないと多分このような張り方の傘はできないので、雨音の音色が綺麗な傘を作る事が難しいだろうと思います。
でも色々骨を探して自分も雨音の綺麗な傘を作ってみたいと思っています。
トトロの映画で、雨の中をバス停で待つミイちゃん達のところにトトロが来て、傘をさした時のその傘に当たる雨音がとても印象的で、きっとこのような音が出ていたのかなと、思い巡らして傘を作り上げてみたいものです。
まだまだ修行途中で色々な傘に出会って自分の技術の向上を目指していきます。
この後もいくつか張り替えの依頼を受けていて、難しいものにチャレンジしていきたいですが、結構これだけでは食べていくことは難しいですね!
ギリギリで出来るところまではやっていきたいです!!